山本産婦人科(三重県津市)の更年期や老年期における高脂血症・動脈硬化についてのページです。

血管を若々しく!

高脂血症と動脈硬化症

心臓病、ことに冠動脈疾患の危険因子としては、

1)高コレステロール血症(高LDLコレステロール血症)
2)低HDLコレステロール血症
3)糖尿病
4)高血圧
5)喫煙
6)肥満
7)ストレス

などが知られていますが、なかでも高脂血症、特に高コレステロール血症が大きな危険因子であるとされています。

女性における冠動脈疾患の発症率は、50歳未満では男性の半分以下であるのに、50歳代以後には増加し、60歳以降では男性の発症率とほぼ同等になってしまいます。これは、脂質代謝の調節作用のあるエストロゲンが、加齢に伴って減少するために高脂血症が引き起こされやすくなるためと考えられています。
そこで、ホルモン補充療法が導入され、この療法が閉経婦人の血清LDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを上昇させることから、動脈硬化の発症を予防できるものと考えられてきました。

しかし、2002年のWHI(Women's Health Initiative)の報告によると、ホルモン補充療法を受けている人と偽薬(プラセボ)を服用している人との比較では、ホルモン補充療法を受けていた人の方でコレステロールの改善効果が認められているにもかかわらず、冠動脈疾患・脳卒中・静脈血栓症の頻度が増加したとのことです。このことは、動脈硬化性疾患の予防には、単にコレステロールの改善だけでなく、個々の閉経婦人の置かれている背景やその他の動脈硬化危険因子への影響も考慮する必要があることを示唆しているものと思われます。

なお、このWHIの被験対象者は、平均年齢が63歳で、肥満例(BMI:30以上)が
1/3を占め、喫煙者が20〜30%に上っています。したがって、これらの背景因子にホルモン補充療法が絡み合った結果であり、日本人を対象として調査をすれば違った結果が得られた可能性もあると思われます。
高中性脂肪(トリグリセリド)血症については、動脈硬化を促進させる因子である可能性が示唆されているものの、見解は一致していません。ただ、血清中性脂肪値が1000mg/dlを超えると膵炎を起こしやすいので注意が必要とされています。
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高脂血症の診断と治療

日本動脈硬化学会から、高脂血症の診断基準および管理基準が示されています。冠動脈疾患の有無、他の危険因子の有無で基準が異なりますから、ご自分の該当する基準を選び、目標値を設定して下さい。

高脂血症の診断基準

(血清脂質値:空腹時採血)

高コレステロール血症 総コレステロール  ≧220 mg/dL
高 LDL コレステロール血症 LDL コレステロール  ≧140 mg/dL
低 HDL コレステロール血症 HDL コレステロール  < 40 mg/dL
高トリグリセリド血症 トリグリセリド  ≧150 mg/dL


患者さんをLDLコレステロール値以外の主要冠危険因子の数により分けた
6群のカテゴリーと管理目標値
カテゴリー 脂質管理目標値(mg/dL) その他の冠危険因子
の管理
  冠動脈
疾患*
LDL-C
以外の
主要冠
危険因子**
TC LDL-C HDL-C TG 高血圧 糖尿病 喫煙
A なし <240 <160 ≧40 <150 高血圧
学会の
ガイド
ライン
による
糖尿病
学会の
ガイド
ライン
による
禁煙
B1 <220 <140
B2
B3 <200 <120
B4 4以上
C あり   <180 <100
TC:総コレステロール、LDL-C:LDLコレステロール、HDL-C:HDLコレステロール、
TG:トリグリセリド
* 冠動脈疾患とは、確定診断された心筋梗塞、狭心症とする。
** LDL-C以外の主要冠危険因子
加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、
低HDL-C血症(<40mg / dL)
原則としてLDL-C値で評価し、TC値は参考値とする。
脂質管理は先ずライフスタイルの改善から始める。
脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとする。
糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3とする。
家族性高コレステロール血症は別に考慮する。
(日本動脈硬化学会・動脈硬化性疾患ガイドライン、2002)
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日常生活の注意点

*食事
1)1日の摂取カロリーを25〜30kcal/kg×標準体重を基準にして、脂肪は1日の総摂取カロリーの25%以下にしましょう。
標準体重の計算の方法は、妊娠と肥満の項を参照して下さい。
2)1日のコレステロール摂取量を300mgを超えないようにしましょう。
たとえば、卵黄1個には250mgのコレステロールが含まれていますから、コレステロールの過剰摂取にならないように、日頃の食事内容を十分検討するように心がけましょう。
3)コレステロールは、卵黄以外に魚卵(たらこ、いくら、子持ちししゃもなど)・うに・魚の内臓(煮干し、シラスの丸ごと)・イカ(スルメ)、レバーなどに多く含まれていますから、特にこれらの食品の摂りすぎに注意しましょう。
4)サバ・イワシなどの青身魚を摂りましょう。
青身魚にはエイコサペンタエン酸(EPA)が含まれています。EPAには、脂質低下作用、特にトリグリセリドを低下させる他に、抗血小板作用・動脈の弾力性保持作用など、さまざまな抗動脈硬化作用があることが知られています。EPAは必須脂肪酸といって、人間の体内では決して合成できない物質なので、食事で十分補えるように配慮しましょう。

*運動
肥満とくに内臓型肥満があれば、まず体重管理を何よりも優先すべきでしょう。運動療法は、トリグリセリドを低下させHDLコレステロールを増加させる他に、末梢のインスリン感受性も高め、糖代謝の改善にもつながります。
だだし、既に冠動脈硬化症がある人では、軽い運動から始め、自分にあった運動メニューをたてることが大切で、急に頑張りすぎないようにしましょう。

有効な運動の目安は、最大心拍数の70〜80%の強度で、時間は30〜40分がよいでしょう。脂質を効率よく燃焼させるためには、1回の運動時間は30分以上で、頻度は週3〜4回が適当で、週2回以下では効果が上がらないとされています。つまり、2日に1度以上の頻度で、30分以上の有酸素運動が必要と考えて下さい。また、運動は中止すると速やかに効果が消失するとされていますから、できるだけ長期間継続できる自分にあった楽しい運動を選ぶべきでしょう。まずは手軽な散歩・縄跳び・体操・自転車などから始めてみてはいかがでしょうか。
体重の目標はBMI=22として下さい。少なくとも24以下になるよう努力しましょう(BMIについては妊娠と肥満の項に記載がありますから参照して下さい)。

*喫煙・飲酒・塩分過剰摂取
いずれも増悪因子と考えられますから、この際、禁煙・禁酒に踏みきり、減塩に努めましょう。
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薬物療法

まず、薬物療法は食事・運動療法を基本にして行われるものであり、食事・運動療法を省略して行われるものではないことを理解して下さい。

*ホルモン補充療法
WHIの報告(既述)を十分考慮しつつ、定期検査での副作用チェックで問題がなければ、やはりホルモン補充療法に期待が持てると思います。心配なら隔日服用にしたり、低用量(半量)服用にすることでも、高脂血症に対してある程度の効果が期待できます。
ただし、著しい高脂血症があったり、既に動脈硬化病変のある人では高脂血症治療薬を優先すべきであり、ホルモン補充療法は、比較的軽度の高脂血症で更年期症状や骨粗鬆症など他の疾患の予防も考慮する場合に適応となるものと考えて下さい。
エストロゲンの脂質代謝への影響は、以下の通りです。
 エストロゲンの脂質代謝への影響
1)総コレステロールを低下させる。
2)LDLコレステロールを低下させる。
3)HDLコレステロールを増加させる。
4)中性脂肪(トリグリセリド)を増加させる。
5)コレステロールとは独立した危険因子と考えられるリポ蛋白(a)
  【Lp(a)】を低下させる。

ホルモン補充療法のみで十分な脂質改善が認められない場合は、高脂血症治療薬ことにHMG−CoA還元酵素阻害剤(下記)の併用によって、HDLコレステロールを低下させることなく、総コレステロールやLDLコレステロールを低下させることができます。
なお、同時に投与されるプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)には、種類と量によってはエストロゲンの脂質代謝改善作用を抑制してしまう可能性があり、プロベラ(MPA)2.5mg/日が適量と考えられています。
ホルモン補充療法の詳細は、別項を参照にして下さい。

*HMG−CoA還元酵素阻害剤(スタチン系薬剤)
最もよく使われている高コレステロール血症治療剤で、メバロチン(プラバスタチンナトリウム)・リポバス(シンバスタチン)ローコール(フルバスタチンナトリウム)・リピトール(アトルバスタチンカルシウム水和物)などがあります。副作用には、横紋筋融解症がありますので、筋力低下・筋肉痛・発熱などが出た場合は中止しなければなりません。

HMG−CoA還元酵素阻害剤の働き
スタチン系薬剤の作用機序は、1)肝臓でのコレステロールの合成に重要な役割を演じているHMG−CoA還元酵素という酵素の働きを抑えて、肝細胞内のコレステロール量を減少させる、2)その結果、肝細胞表面のLDL受容体活性が増加するために血中のLDLコレステロールの肝臓への取り込みが亢進する、3)コレステロールの異化が促進して胆汁中への排泄が増加するとともに、血中LDLコレステロールが低下することによっています。つまり、平たく言えば、余分な血液中のコレステロールを胆汁の中へ追いやって下げる薬と理解して下さい。

*胆汁酸排泄促進剤
コレステロールから胆汁酸が作られて、腸内に排泄されていますが、胆汁酸は腸肝循環といって、再吸収されてもう一度肝臓に戻されています。胆汁酸排泄促進剤は、腸管内で胆汁酸と結合して、この再吸収を抑えることにより、コレステロールを下げる薬剤です。クエストラン(コレスチラミン)やコレバイン(コレスチミド)があります。これらの薬剤の副作用としては、胃腸症状(便秘・腹部膨満感・嘔気・腹痛など)が主なものですが、コレバインにはスタチン系薬剤と同様に横紋筋融解症もあります。

*プロブコール
LDLコレステロールを低下させますが、同時にHDLコレステロールの低下作用も持っています。強い抗酸化作用があり、これに関連すると考えられる特異な抗動脈硬化作用があります。製剤としてロレルコ・シンレスタール(プロブコール)がありますが、副作用として心室性不整脈がありますので、心電図で異常のある方は注意が必要です。

*フィブレート系薬剤
この薬剤は、主に高中性脂肪血症の治療に用いられていますが、HDLコレステロールの上昇作用もあるとされています。ヒポセロール(クロフィブラート)・アルフィブレート(クロフィブラートアルミニウム)・リポクリン(クリノフィブラート)・ベザトールSR(ベザフィブラート)・リパンチル(フェノフィブラート)などがあります。
副作用としては、胆石の発症を促す可能性があり、横紋筋融解も起こる可能性があります。腎機能低下のある人では使用できません。

*ニコチン酸製剤
この薬剤も高中性脂肪血症の治療に用いられますが、便秘・顔面紅潮・皮膚掻痒感などの副作用がよく出ることから、日本では比較的使用頻度が低くなっています。製剤としては、コレキサミン(ニコモール)やペリシット(ニセトリール)があります。