山本産婦人科(三重県津市)の妊娠高血圧症候群の危険性と予防法についてのページです。

妊娠中期の出来事

妊娠高血圧症候群ってヤバイの?

結論から言って大変ヤバイです。 なぜなら、お母さんにも赤ちゃんにも、非常に重篤な状態を引き起こす病気で、死に至る可能性があるからです。

妊娠高血圧症候群による危険な状態

    1. 高血圧

    2. お年寄りの高血圧症と何ら変わりありません。脳卒中(頭蓋内出血)や眼底出血が起こる可能性があります。
    3. 子癇

    4. ケイレン発作です。致死的な昏睡状態になることもあります。
    5. 凝固障害

    6. 凝固因子という血液を固める成分が消費されてしまうため、出血が止まらなくなる状態です(血管内凝固症候群・ヘルプ症候群)
    7. 急性妊娠脂肪肝

    8. 肥満によるものとは違います。死に至りうる脂肪肝です。
    9. 肺水腫・胸水・腹水

    10. 余分な水分が多量に蓄積して、肺が“溺死状態”になります。
    11. 常位胎盤早期剥離

    12. 「あと産」として出てくるはずの胎盤がお産の前に剥がれてきます。出血が止まらなくなります
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胎児・新生児への影響

お母さんがアップアップの状態になるわけですから、お腹の中の赤ちゃんもヤバクないはずはありません。発育状態が悪く低体重で生まれたり、仮死状態が重篤だったりします。
妊娠高血圧症候群の最善の治療法が、“できるだけ速やかに妊娠を終了させること”であるため、早産の時期であっても、お母さんの救命処置として帝王切開を行わなければならないことがあります。当然、赤ちゃんは未熟児です。

このようなことから、妊婦健診の1つの大きな目的は、“妊娠高血圧症候群になってきていないかどうかをチェックすること”と言っても過言ではないくらいです。

妊娠高血圧症候群の病型分類

(日本産科婦人科学会、2005年)
妊娠高血圧(Gestational hypertension)
妊娠20週以降にはじめて高血圧が発症し、分娩後12週までに正常に戻る場合。

妊娠高血圧腎症(Preeclampsia)
妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩後12週までに正常に戻る場合。

加重型妊娠高血圧腎症(Superimposed preeclampsia)
a) 高血圧症(chronic hypertension)が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し妊娠20週以降、蛋白尿を伴う場合。
b) 高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降、いずれかまたは両症状が増悪する場合。
c) 蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合。

子癇
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるもの。
痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇と区別される。
症候による亜分類
(重症度の分類)
軽症    
  血 圧: 次のいずれかに該当する場合。
収縮期血圧  140mmHg以上〜160mmHg未満
拡張期血圧   90mmHg以上〜110mmHg未満
  蛋白尿: 300mg/日以上〜2g/日未満

重症    
  血 圧: 次のいずれかに該当する場合。
収縮期血圧  160mmHg以上
拡張期血圧  110mmHg以上
  蛋白尿: 2g/日以上
発症時期による病型分類
早発型(EO:Early onset type)
妊娠32週未満に発症するもの。

遅発型(LO:Late onset type)
妊娠32週以降に発症するもの。

注:早発型の方が母児にとって予後が悪い場合が多い。
発症頻度
全妊婦の中で発症する割合
妊婦高血圧腎症------------------------------------2〜7%
慢性高血圧合併妊婦--------------------------------1〜5%
子癇--------------------------------------0.2〜0.5%

再発率
妊娠高血圧症候群の人が 次回の妊娠時に再発する頻度
妊婦高血圧腎症------------------------------------3.4%
高血圧のみの再発------------------------------------25%
早期型(妊娠32週未満に発症)だった人の再発----------60%
ヘルプ症候群の再発--------------------------------3〜5%

ヘルプ症候群

ヘルプ(HELLP)症候群は、主な症状である溶血(Hemolysis) ・肝臓からの酵素の上昇(Elevated Liver enzyme) ・血小板減少(Low Platelets)の組み合わせHELLPから命名された症候群です(“助ける”のHELPよりLが1個多い)。国際的に用いられるSibaiの診断基準では、溶血:間接ビリルビン値 > 1.2mg/dl、LDH > 600U/L、病的赤血球の出現。 肝機能異常:血清AST(GOT) > 70U/L、LDH > 600U/L。血小板減少:血小板数<10万/mm³となっています。
HELLP症候群は、重症妊娠高血圧症候群の約10%に合併(全妊娠の約0.1%にあたる)するとされ、突然の上腹部痛ではじまり、診断が遅れると播種性血管内凝固症候群(DIC)という血液が固まりにくい状態や肝不全の状態に陥り致命的となるため重篤な疾患といえます。
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それでは妊娠高血圧症候群にならないためには、どのようにすればよいのでしょうか?

妊娠高血圧症候群の予防について

1. 肥満
妊娠前の肥満は危険因子となります。
BMIが24以上では、妊娠高血圧症候群の発生率は3倍になります。
高カロリーで脂っこい物(多価不飽和脂肪酸)や甘い物(ショ糖)を摂りすぎると妊娠高血圧症候群になりやすいことも知られています。
また、もともと血圧の高めの人も、妊娠高血圧症候群になりやすいとされています。

妊娠中の体重増加を適正範囲内にとどめておきましょう
(詳しくは“太っちゃダメってどういうこと!”のところを再読して下さい)。

2. 運動
軽い運動と規則正しい生活が妊娠高血圧症候群の予防に役立つことが知られています。
切迫流・早産の可能性を指摘されていないかぎり、適度な運動に心がけましょう。
ただし、運動が食欲増進につながり、食べ過ぎてしまっては、元も子もありません。
5,000歩を散歩したとしても、そのカロリー消費量は約210kcalです。これは、わずかごはん0.9杯分(140g)にしか相当しません。念のため。
3. ストレス
勤務(就労)によるストレスがこうじると妊娠高血圧症候群になりやすいと報告されています。必要に応じて母子健康管理指導事項連絡カードを利用して、職場に理解を求めましょう。
また、自宅では、睡眠・休養を十分とりましょう。
4. 塩分摂取量
塩っ辛いものはほどほどに。妊娠高血圧症候群の予防には、食塩摂取量を1日10g程度に抑えることが推奨されています。ちなみに、島国に住んでいる日本人は、海産物と一緒に塩分の摂取量が増えぎみで、1日15g程度(欧米では10g以下)摂取しているとされています。ふだんから“薄味”にすることが大切です。
水分摂取量については、厳密ではありません。要は塩分制限がポイントです。
 
薄味料理のコツ
    1. 新鮮な食材の持ち味・香りを生かしましょう。
    2. 薬味や香辛料の風味を生かしましょう。
    3. 酢や果物の酸味を利用しましょう。
    4. 天然だしを上手に使いましょう。
    5. 味付けはできるだけ表面だけにおさえましょう。
    6. 減塩しょう油の利用を試みましょう。
5. タンパク質摂取量
予防的には、理想(標準)体重×1.2〜1.4gを1日に摂るのが望ましいとされています。
例えば、身長163cmの人では、理想(標準)体重=22.0×1.63×1.63=58.5kgですからタンパク摂取量は、58.5×1.2=70.2g〜58.5×1.4=81.9gが望ましいことになります。
豆腐や魚(とくにエイコサペンタエン酸を多く含む青身魚)を中心に、肉類であれば、脂身の少ないものが良いでしょう。
6. その他の栄養
動物性脂肪と糖類は制限し、高ビタミン食(坑酸化作用のあるビタミンEやビタミンC)とすることが望ましいとされています。
予防的には、通常の食事で摂取するカルシウム(1日900mg)に加えて、1〜2gのカルシウム摂取が有効ともされています。また、海草中のカリウムや魚油・肝油(不飽和脂肪酸)、マグネシウムを多く含む食品(野菜など)に高血圧予防効果があるとされています。

妊娠高血圧症候群は2004年まで妊娠中毒症と呼ばれていました。“食中毒”じゃあるまいし、“妊娠”に“アタル(中毒)”というイメージが好ましくないので妊娠高血圧症候群と改称されました。
それに伴い病型の新分類がなされ、妊娠中毒症の3主徴の1つであった“むくみ(浮腫)”はそれほど重要視されなくなっています。これは、浮腫が軽度のものまで含めると正常妊婦の40%〜60%に認められ、とりたてて特別視する必要性がないと判断されたことによっています。しかし、横になって安静にしても持続する浮腫が下肢だけでなく顔面・手指・全身に及ぶ場合や体重の急激な増加(500g/週以上)のある場合、さらに蛋白尿が持続することによって血液膠質浸透圧の低下が考えられる状況では、肺水腫などの重篤な合併症が起こりうる危険性があり、引き続き注意が必要でしょう。
朝起きた時に手指がこわばって握りにくいようであれば、浮腫が出てきている“しるし”であり、さらに手指がシビレたり、手首の内側を押さえると指先に痛みが走るようになると手根管症候群と言って、神経が浮腫のために圧迫を受けていることが考えられます。症状が軽快しないようなら、受診時にご相談ください。